管理職が潰れている理由 ― 組織の矛盾が集まる構造と、その再設計の可能性

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近年、管理職の疲弊があらゆる現場で浮上している。
「プレイングマネージャー」「上司と部下の板挟み」「何をやっても評価されない」。
こうした声は、業界や規模を問わず聞かれるようになった。

制度改革やメンタルケアでは、この疲労は止まらない。
それは「努力の不足」ではなく、「役割の設計」が問題だからだ。

集中する矛盾、構造化された消耗

名目上、管理職は「現場と経営をつなぐ橋渡し」とされている。
だが現実には、組織の中で最も矛盾が集中する負荷の交差点になっている。

上からは業績と説明責任、下からは育成と心理的安全性への期待、組織からは即断即決と細やかな配慮の両立が求められる。
これらすべてが「管理職だから」で片づけられ、無言の前提として背負わされる。

「自分だけ怒られ、誰にも守られない」。
そんな孤立状態が日常となり、知らぬ間に管理職は、組織内の摩擦を吸収する“緩衝材”へと位置づけられていく。

解放構造設計という視点

このような構造的疲弊を断ち切るには、管理職の資質や頑張りではなく、役割そのものの設計を問い直すべきである。

鍵は、管理職を「矛盾の集積点」から「循環の起点」へと見直すこと。

  • 調整は、個人の腕ではなく業務設計に組み込む
  • 判断と配慮は、属人性に依存せずチームで分担する
  • 情報共有や対話は、仕組みとして制度化する

つまり、「人のやさしさ」に頼るのではなく、「やさしさが機能する仕組み」を組織として用意するということだ。

これからの組織設計に必要なもの

役職制度の見直しよりも、「役割設計」の再定義が重要である。たとえば:

  • 上意下達型から、共同行為としてのマネジメントへ
  • 承認や支援が自動循環するフィードバックの仕組み
  • 調整を一人に集中させず、複数経路・複数名で担保する構造分散
  • 感情労働を「見えない努力」から、正規の評価項目へと昇格させる制度設計

さらに、組織の理念そのものに、「誰が」「何のために」「どのように」調和を担っているのかを明示する必要がある。
調整行為に価値を与えるには、構造化された意味づけが不可欠だ。

結びにかえて

管理職が潰れているのは、本人の能力が足りないからではない。
矛盾と配慮の全てを、設計なしに個人へ預けてきた組織の責任である。

これからのマネジメントに必要なのは、優れた人材よりも、「人を燃やさない設計」だ。

管理職の役割が、“負荷の緩衝材”から“再生のハブ”へと変わったとき、ようやく組織は、持続可能なかたちを手に入れられる。

木下賢一

解放構造設計家

孤高にして至高。売らず、群れず、構造で惹きつける。 ある人は、それを「静なるカリスマ」と呼ぶ。 解放構造設計家 木下賢一 ──思想・構造・表現の三層を同時に設計し、 人を変えず、構造を変えることで意味と行動を立ち上げる。 Uncage合同会社 代表/令和行政書士事務所 代表。 長崎を拠点に、企業構造と家族構造の再設計を行う。 ▸ 詳細・連絡先|https://kinoshitakenichi.com

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